志賀内泰弘さんの著書『みんなで探したちょっといい話』
から紹介します。
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大のお気に入りのお話があります。
友人の中井俊巳さんが発行するメールマガジンに掲載されていたものです。
中井さんは作家で教育コンサルタントであるとともに、 敬虔なクリスチャンです。

不平不満を口にして、ついつい心に感謝が足りなくなった時、
この話を思い出しては反省します。

               ※

いつもよく働く靴屋さんのもとへ、あるとき天使が 乞食(こじき)の姿になって現れました。
靴屋さんは乞食の姿を見ると、うんざりしたように言いました。

「お前が何をしに来たかわかるさ。 しかしね、ワシは朝から晩まで働いているのに、
家族を養っていく金にも困っている身分だ。ワシは何も持っていないよ。
ワシの持っている ものは二束三文のガラクタばかりだ」
 
そして、嘆くように、こうつぶやくのでした。 「みんなそうだ。こんなワシに何かをくれ、くれという。
そして、今までワシに何かをくれた人など、いやしない…」

乞食は、その言葉を聞くと答えました。
「じゃあ、私があなたに何かをあげましょう。
お金に困っているのならお金をあげましょうか。
いくらほしいのですか。言ってください。」

靴屋さんは面白いジョークだと思い、笑って答えました。
「ああ、そうだね。じゃあ100万円くれるかい。」

「そうですか、では、100万円差し上げましょう。
ただし、条件がひとつあります。
100万円の代わりにあなたの足を私に下さい。」

「何?冗談じゃない!この足がなければ、 立つことも歩くこともできやしないんだ。
やなこった、たった100万円で足を売れるもんか」

「わかりました。では、1000万円あげます。
ただし、条件がひとつあります。
1000万円の代わりにあなたの腕を私に下さい。」

「1000万円!?この右腕がなければ、仕事も
できなくなるし、かわいい子供たちの頭をなでてやれなくなる。
つまらんことを言うな。1000万円ぽっちで、この腕を売れるか!」

「そうですか、じゃあ、一億円あげましょう。
その代わりにあなたの目を下さい。」
 
「一億円!?この目がなければ、この世界の素晴らしい景色も、
女房や子供たちの顔も見ることができなくなる。
駄目だ、駄目だ。一億円でこの目が売れるか!。」

すると乞食は言いました。
「そうですか。あなたはさっき、何も持っていないと
言っていましたけれど、本当はお金には変えられない
価値あるもの をいつも持っているんですね。
しかも、それらは全部もらったものでしょう…」

靴屋さんは何も答えることができず、 しばらく目を閉じ、考え込みました。
そして、深くうなずくと、心にあたたかな風が吹いたように感じました。

乞食の姿は、どこにもありませんでした。

     ※
あるとき、神社の宮司さんに教えていただいたことがあります。
神社では願い事をするのではなく、ただ一言、
「おかげさま」と感謝するものだとおっしゃるのです。

それまで、どれほど多くの願いごとをしてきたことか。
「おかげさま」と感謝することは、ちょっと考えるといくらでも出てきます。

「手足があって、歩けることにありがとう」
「目が見えることにありがとう」
「今日、ご飯を食べるお金があることにありがとう」
「雨の日でも、住む家があってありがとう」
「両親が健康でありがとう」
「友達がいてありがとう」
「家まで無事に帰ってこられてありがとう」

だから今日も、「おかげさま」

ないもの探しをして嘆くよりも、今あるものに感謝したい。

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