志賀内泰弘さんの「ギヴ&ギブ」メルマガから紹介します。
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「思いやり・・・恥ずかしい話」

ものすごく恥ずかしいお話をさせていただきます。
読者の皆さんのお叱りは承知で、自戒を込めて思い切ってペンを取りました。 

友人のお祝い事が続きました。一人は初めての子どもの誕生。
女の子です。もう一人は、勤め先での課長昇進の知らせです。
二人にお祝いを贈るために、デパート内の紅茶専門店に出掛けました。
あまりにも種類が多く、「どれにしようかなぁ」と迷ってしまいました。
相談に乗ってもらおうと、女性の店員さんに声をかけました。

ところが、です。二度呼んだのに返事をしません。
少々ムッとしました。
三度目にちょっと大声で「すみません!」と言うと、
ようやく近くに来てくれました。
でも、何だかボーとしているのです。
覇気がないというか、人の話を心そこにあらずという感じ。
笑顔一つ見せません。何かほか事を考えていたのでしょうか。
最近、どこに行っても、挨拶さえきちんとできないスタッフが実に多い。
世の中全体にサービスの低下を感じていた矢先のことでした。

二人の友人宛にしたためた手紙を同封してもらおうと準備をして来ました。
誤って逆の包みに入ってしまったら大変です。
以前、そういうトラブルを体験したこともあり、何度も、
「大丈夫ですね」と確認をして発送お願いしました。 

私は、他にも買い物をしてから、帰宅しようと地下鉄の駅の
階段を下りながらモヤモヤしていました。
先ほどのお店の接遇態度の悪い女性店員の顔が頭から離れないのです。
何かが心に引っ掛かる。でも、その「何か」がわからないです。
改札の前まで来た時、ハッとしました。

(ひょっとして・・・)

とある事が心の中にもたげました。
踵を返し、再び階段を駆け上がり、デパートの地下一階へと戻りました。
そして迷いに迷ったあげく、そのお店に電話をして、
紅茶専門店のマネージャーさんに繋いでもらいました。

すると、40歳くらいの女性が電話口に出られました。
「すみません。二時間ほど前にお宅のお店で買い物をした者です。
大変つかぬ事をお尋ねしますが、店内にいらっしゃる
黄色いエプロンをかけた女性のことです」

「はい、何か不手際がございましたでしょうか」

「い、いえ、そういうわけでは・・・。
ただ、ひょっとしてと気になって・・・
その方は耳がご不自由でいらっしゃるのでしょうか」 

「はい、そうです。耳と言葉が少し。申し訳ございません。
何かお客様にご迷惑をおかけしましたでしょうか」 

電話の向こうから、心配そうな返事が聞こえました。 

その瞬間、私は冷や汗が出ました。
凍りつきそうなほどの冷たい汗です。
間違いなく先ほどの私の顔つきは、「サービスがなっとらん」
という表情だったことでしょう。
彼女は、完全に耳が聞こえないのではなく、難聴なのだと推測できました。
今から思い返すと、話し言葉も、少々たどたどしかったようです。
なぜ、あの時、その場で気づかなかったのか。
気づいていれば、もっと大らかな態度も取れたのに。
後悔がどっと襲ってきました。

 彼女は、障害を持っているがゆえに、それを
他人に悟られないようにと頑張っていたのでしょう。
笑顔がなかったのは、おそらく慣れない仕事への取り組みの、
「一生懸命さ」の表れだったに違いありません。
一生懸命であればあるぼと、頑張るほどハンディは目立たなくなる。
だから、ほとんど健常者と同様に見えたに違いありません。

罪の意識で押し潰されそうでした。何と言っていいのか・・・。 

「ごめんなさい。きっと、私の不愉快そうな態度は、
彼女の心を傷つけてしまったに違いありません」

「・・・」

「お祝いの品を二つ買った、やせっぽちでノッポの男性が、
謝っていたと伝えていただけないでしょうか」

「わかりました。お客様、どうか気になさらないで下さい」

マネージャーさんの明るい声に、少しだけ救われた気がしました。

「実は私・・・今、お宅の店が見える少し離れた
場所からかけさせていただいているのです」

「え?!」

「直接、お店に伺って確かめる勇気がなくて、電話をしてしまいました」

 実は、何度も何度も、お店の前まで行ったのです。
いや、前を行ったり来たりしましたが、とうとう入ることができませんでした。
だって・・・(もしや)と思っても、本人に直接面と向かって
「あなたは、耳が不自由なのですか」などと尋ねるわけにもいきません。
もし、間違っていたら大事です。

 また、こういうことも考えてしまいました。

もし障害をお持ちだったとしたら、「同情して欲しくない」
と思われるかもしれません。
謝りに行って、反対に彼女を傷つけてしまう恐れもあります。
気付付けてでも、このままではいけない。
彼女は、私の心無い態度で、傷ついているかもしれない。

(ああ〜どうしたらいいんだろう〜)

悩んだ末に、柱の影から店の様子を覗きながら携帯電話でかけたのでした。

「彼女のことでしたら大丈夫です」

私を慰めようとしているのか、マネージャーさんは優しく言っていれました。

「では・・・頑張ってください・・・と伝えていただけますか」

「はい、わかりました。ありがとうございます」

「よろしくお願いします」

「このお電話のこと伝えさせていただきます。きっと彼女にとって、
何よりの励みになると思います。私たち仲間も、彼女の応援をして行きます」 

ああ、なんて素晴らしい仲間なんだろう。
私は自分のことは棚に上げ、電話に出てくれた
マネージャーさんの言葉に感動しました。

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