日本講演新聞の記事から山本孝弘さん(中部支局長)の社説から紹介します。
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先日、山野肆朗(しろう)著『警察官の本分』を読んだ。
その中に震災直後の被災地で一人の巡査長が経験したこんな話が載っていた。

 震災から約1か月後、思いつめた表情をした30代半ばの女性が二人の幼い子を連れて警察署に来た。
そして肩を震わせ涙を流しながらこう言った。
「震災直後、食べるものがなく入り口が壊れたお店から
子どもたちと一緒に水と食べ物を盗みました。」
その後、援助物資が届き、食べ物の心配がなくなると、
罪の意識にさいなまれ苦しんでいたという。
そして、あえて子どもを連れて警察署に来たとのこと。
子どもたちも声を上げて泣き出した。
巡査長も被災者である。お母さんの気持ちはよくわかった。
「それは犯罪ですが責められません。」、そんな言葉が喉元まで出ていたが、
彼はそれを飲み込み、あえて強い口調で言った。
「店舗が被災した上に商品まで盗まれたお店にとっては最悪の状況です。それは犯罪です。」
それがお母さんの勇気に応えることだと思った。
それは本当につらい体験だったと語る。
彼女たちを返した後、巡査長は所の奥に行って一人で泣いた。
事情を聴いた被害者は被害届を出さず、立件はされなかった。

もし、巡査長が罪を見逃したら、子どもたちは自分たちがやったことをどう思っただろうか。
本当に優しい人とは、こういう強さを持った人たちのことを言うのだろう。
その強い心にも畏敬の念と美しさを感じる。 

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