致知出版社『心に響く小さな5つの物語』シリーズ第3弾の中から、
心に残る一篇をご紹介します。

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 夢に挑む
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地球上には、どれくらいの生物がいるのだろうか。 

おそらく何百万種、いや何千万種の生物が生息しているのだろう。 

だが、地球上の全生物中、夢を見、夢に挑み、
それを実現させてきたのは人間だけである。 

人間だけになぜそれが可能だったのだろうか。 

一九七四年、アメリカのジョハンソン博士のグループが、
エチオピアのハダールで人類の祖先の頭蓋骨を含む
ほぼ全身骨格を発掘、それをルーシーと名づけた。

この骨格の研究によって、人類誕生は四百万年前、
誕生の地はアフリカというのが定説になった、と
脳生理学者の大島清氏から伺ったことがある。

ルーシーは骨格年齢から見てほぼ二十歳。
これは当時の平均寿命だったという。

身長百十センチ。体重二十七キロ。
ルーシーがサルでも類人猿でもなく
人類だと言える根拠は、その額である。

サルやチンパンジーの額は水平だが、現代人は垂直。
ルーシーの額には垂直に向かう特徴があるのだ。
そして重要なのは大後頭孔——脊髄が頭蓋骨に出てくる穴。

牛や馬など四足歩行の動物は、これが斜め後ろについている。
ルーシーのそれは真下。
これはルーシーが直立して歩いた証拠である。

直立二足歩行。
これこそ人間を人間たらしめた最大のもの、なのである。

二本足で歩くことで両手が使えるようになり、
その手は道具を使うようになり、火をおこし、
言葉を話すようになる。

このことは、人間だけが夢を見るようになることと
真っすぐに繋がっているように思えるのである。

 人類の歴史は夢に挑んできた歴史である。

文明史は夢の挑戦史と言っていい。 

夢に挑み、幾多の困難を乗り越えて
夢を実現した人たちには、等しく共通したものがある。

 困難を「障害物」ではなく「跳躍台」にしたことである。

 「すべての逆境にはそれと同等かそれ以上に
大きな恩恵の種子が含まれている」とナポレオン・ヒルは言っているが、
そのことを身体で知っていたということである。

 その典型はトーマス・エジソンである。
エジソンは一八四七年、アメリカ・オハイオ州に生まれ、
八十四歳でその生涯を閉じた。

その間に成した発明、改良は三千に及ぶ。
三十歳で電話機や蓄音機を生み出し、
その翌年、三十一歳で人類史上に
画期をもたらした実験に取りかかる。
白熱電球の発明である。

実験に打ち込むこと一年。
五千回もの失敗を繰り返し、
一八七九年、三十二歳のエジソンは
ついに白熱電球四十五時間連続点灯に成功した。 

いまから百三十五年前。
それまで人類は夜はローソクやランプで暮らしていた。
夜は暗いものと決まっていた。

その生活を電灯という灯りを創り出すことで一変させたのだ。

有名な逸話がある。

「電球を完成させるのに五千回も失敗したそうですね」
という新聞記者の質問に、エジソンはこう答えたのだ。

「五千回も失敗したって? そんなことはない。
うまくいかない五千通りの方法を発見するのに成功したんだよ」

 

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