致知出版社のメルマガから紹介します。
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「学者棟梁」の異名をとった大工棟梁の田中文男氏。
多くの木造建築技術の後継者を育てたことでも知られています。
「大工の技術取得法」という興味深いお話をお届けします。
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大工の技術取得法は、大きく三つに分けることができます。

それは「慣れて身に付ける」
「教えてもらって覚える」
「習って高める」です。

「慣れて身に付ける」とは、
いろいろな道具を自分の手足として使いこなすことです。
それには慣れるしかなく、これを怠ると一生そのツケがついて回ります。

「教えてもらって覚える」とは、
修行期間中に親方や兄弟子から、大工になるための常識を教えてもらうことです。

 その常識とは、やっちゃいけないことなんですね。
どうすればよいかではなく、職人としてやってはいけない、
いわばタブーを教え込まれました。

このタブーが大工にとっての常識で、五十ぐらい知って初めて職人として通用します。
棟梁で二百ぐらい、現場の管理者ともなると七百ぐらいでしょうか。

「人に迷惑かけるな」
「ひとに笑われるな」
「人にやってもらいたくないことは死んでもやるな」
などが、やってはいけないことのイロハです。

「慣れて身に付ける」「教えてもらって覚える」の二つがある程度身に付くと、
年季があけて職人として世の中に出られるんだけど、みんなこの二つで終わってしまうんだよね。

ところが、大事なのは三つ目の自分で「習って高める」、
つまり死ぬまで勉強だということです。

これを怠るとその職人はやがて使い物にならなくなって食えなくなる。

大工の仕事は日々変わっていく。
客層も、材料も、流通も、仕事の内容もどんどん変わっていく。

親方に叱られながら必死で覚えたことでも、
十年もたつと使えなくなるんだから厳しいよね。

 いま職人が注目されて、職人技が必要だとかもてはやされているけど、
実際は一生食える職人技なんてものはないんですよ。

 常に自分で「習って高める」ことが、その後の収入に比例していくんです。

 私は十代で覚えたことで、二十代を食った。
二十代に覚えたことで、三十代に女房、子供を養いながら、四十代、五十代まで食える勉強をした。
三十代を安穏と過ごしたやつはだめじゃないかな。

だから、年相応にやることを考えていかないと、
五十代になったらポンコツだぞ、と若い者には言っているんです。
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大工にならなくても、人生でのとても大切なことを教えてくれています。

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