小冊子「見えないものに価値がある」志賀内泰弘著から紹介します。
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テレビで著名人の訃報を知った。
その特集のVTRが流れた後のキャスターのコメントにハッとした。
「なんだ、みんな、全然死んでいないじゃないか」

そうなのだ。誰かがなくなっても、周囲の人々の中にその人はちゃんと生き続けている。
それがあれば、その人は「生きている」ということになる。

私の父は私が35歳の時に他界した。
この時までは私がちょっと間違ったことをしでかすと、
口うるさく言う困った父親だった。
私は以下に親の目を盗んで悪さをするか、そればかり考えていた。

ところが、死んでしまうと違うのである。
生きている間は、「目を盗む」ことができるのだが、
死んでしまうと、私がどこへ行こうと、誰と会おうと
父はいつだって、私の肩の上にいるのだ。

だから隠しようがない。
よって、私は父の死以降、すっかり品行方正になってしまった。
そのおかげで、何とか今日まで生きてこられた。

また、父が他界したときにある人から、
「人によっては、人は死んだら星になるのだけど、
いつも天空から見守っていてくれて、万が一の時とか、迷った時とかには、
道を誤らないようなアドバイスをくれる存在になるんだよ。」
と教えてもらったことがある。

この人は子どものころに父親を亡くした人だが、
そのように信じることでつらい時期を乗り越えてきたのだろう。
この言葉は、私にとって大きな支えになった。

私の母は今でも健在であり、私には母を失う痛みはわからない。
男は父親よりも母親を失った時のショックが大きいという話を聞いたことがある。
 また、戦場で死ぬ目前で兵士が「お父さん」と叫ばず、
「お母さん」と言って散っていくのは無理からぬことだと、
自分の息子を見ながら思う。
息子にとって、とてつもなく母親は大きな存在なのだ。

だから、父の死と一緒に語ることはできないが、
もし、私が君に何か伝えられるとしたら、
父が死んで以降、私が実感したことだけである。
たまたま出張中で、通夜にも告別式にも参列できなかったから、
今こうして伝えたい。

「あなたのお母さんは、全然死んでいませんよ。
まだ生きていらっしゃる。ほら、あなたの肩の上に。
そして、これから、ずっと。
あなたが正しい方へ進むよう見守ってくれています。」

「魂」とは、生き続けるものだということを知りました。
そう、目に見えないものに価値があるのです。

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