志賀内泰弘さんのギブ&ギブメルマガから紹介します。
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日本講演新聞(旧みやざき中央新聞)の水谷もりひと編集長から
「うちの特派員で、なかなかいい文章を書く人がいるので、
応援してもらえませんか」と頼まれました。
愛知県在住の山本孝弘さんです。

その山本さんのエッセイ集「明日を笑顔に」
そこから、志賀内お気に入りのお話を紹介させていただきます。

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 『心に沁みるエッセイ  ガンジス川の少年』   山本孝弘

アジアの国をいろいろ旅した。
それぞれの国にそれぞれの魅力がある。
でも一番刺激的だった国といえばそれはインドだ。 

野良牛が闊歩するインドでは、今まで見たことのないようなものや
会ったことのない種類の人間に毎日出くわした。
インドは街中にあからさまな欲望が渦巻いており、
その喧騒の中にいると自分の価値観が崩壊していくのが分かった。 

それがなんだか心地良いのだが、油断していると危うい雰囲気に飲まれそうになる。
行く度に「もう二度と来ない」と思うのだがなぜかまた行ってしまうのがインドだ。
得体の知れない魅力があるのだ。 

三度目のインドの旅の出来事である。
ネパールからインドまでオンボロバスに乗り一日かけてガンジス川の沐浴で有名なバラナシという街に着いた。
くたくただった僕は適当な安宿を見つけ、丸太のように眠り続けた。 

翌日の昼、宿のベッドからなかなか起きられず、ぼんやりする頭でこの街の次はお釈迦様が悟りを開いた街「ブッダガヤ」にでも行こうかなと漠然と考えていた。
夕方になっても疲れは取れなかったが、外の空気を吸おうと思いふらっと宿を出た。 

「ミルダケOKデス」、「ヤスイ、ヤスイ!」といろんな物売りが変な日本語で話しかけてくる。
疲労困憊の僕は彼らとのやり取りを楽しむ余裕もなく、日本語も英語も一切通じない国の人間を装い歩き続けた。
訝し気な眼差しで物売りたちが去っていく中、一人の少年が付いてきた。 

“You  must  be  Japanese.“(おまえは日本人に違いない) 

十五歳くらいの彼はそう言って妙に楽しげにずっと僕に話し掛けてきた。
それでも僕は無言を貫いていた。
すると彼は僕の前に立ち、突然こう言ったのだ。 

「世田谷、阿佐ヶ谷、ブッダガヤ!」 

僕は声を上げて笑った。
完全に負けた。観念した僕は彼から絵葉書を数枚買い、屋台で彼にコーラを奢った。
少年と川辺に座りガンジス川に沈む夕陽を一緒に見ていたら不思議とそれまでの疲れが消えていった。

 インドは心も体も掻き乱されるがまた訪れたい。
あの国には何かがある。
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いつかインドに行ってみたいですね。

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