「自分の花を精いっぱい咲かせる生き方」(鈴木秀子著)に出ていた話です。(文章が長くてすみません。)
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 数年前、一人のエリート商社マンが肺がんと診断されました。出世コースまっしぐらの四十代の働き盛り。まさに脂ののりきっていた時でしたから、仕事や家族のことを考えると、現実をなかなか受け入れることができませんでした。無理もないことだと思います。
 ある日、彼は息子さんが通う中学校の担任の教師に突然呼び出されました。
 教師は何も言わずに一枚の答案用紙を父親に見せました。満点に近い答案でした。
 しかし、よく見ると間違っているところをたくさん書き直して自分で〇をつけていることが分かります。書き直した筆跡は明らかに息子さんのものでした。
 答案用紙を見つけた先生が「あなたが自分で書き換えたのではないかね。」と問いただすと、息子さんはうなずいて一言「お父さんが喜ぶから・・・・・・」と言ったというのです。
 父親は答案を手にしたまま、しばらく黙っていました。
 しかし、やがて教師に自分の病気を打ち明け、涙ながらに話を始めました。
 「おそらく息子は私を慰めようとしてそんなことをしたのでしょう。私がどうしたら喜ぶかを息子はよく知っていたんです。私はこれまで人を押しのけて業績を上げること、目に見える世界で栄冠を手にすることが大切だと言う価値観でずっと生きてきました。その価値観を息子は受け継いでいたのだと思います。」
 父親はひどく落ち込んだ様子でしたが、ふと顔を上げると「私にはもう時間がありません。息子にこういう価値観を植え付けてしまったことが悔やまれます。本当に申し訳ないことをしてしまいました。」と力強くはっきり言いました。

 父親の態度が大きく変わったのは、この日からです。病気が、大切なことを教えてくれたのでしょうか。目に見える世界しか関心がなかった父親は、命のつながりに目を向けるようになっていました。
 どんなに勉強ができなくても、ずるをして人に抜きん出ようとする弱さがあろうとも、神様から命をいただいて生かされている息子さんを、ありのままに無条件で受け入れるようになったのです。
 後に父親は語ります。
「病気のおかげで生かされていることへの深い感謝を覚えるようになりました。いまの私は感謝の思いだけで日々を生きています。肺がんで息をするのも苦しい状態なのですが、だからこそ命の意味をより深く自覚できるかもしれません。」
 この父親は幸いにして今も生きて、病気を受け入れながら平穏な生活を送っています。息子さんも勉強に熱が入るようになり、見違えるほど真面目で誠実な少年になりました。
 このように、私たちの命は神様から分け与えられたものであり、その根源に意識を向ける時、人生は大きく転換し、本当の幸せに気づくのです。
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病気などの苦しいこと、困難からでも、教えられることがあるのですね。

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