言の葉大賞入選作品集(第5回)の
『「言葉の力」を感じるとき』から紹介します。
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入選  文章(手紙・作文)部門

言ってはいけない言葉

中学に入ったあたしは毎日イライラしていた
なぜ学校に行かなければならないのか、
なぜ勉強しなければならないのか、
人はなぜ生きるのか、
‥‥‥‥‥‥
生きていく難しさに打ちのめされていた

「産んでくれって頼んだ覚えないよ」
夕食の食器を洗う母にふいに言った
言ってはいけない言葉だと分かっているから
多少遠慮がちに言った

母の手が止まった
水道の蛇口が閉まった
怒られる覚悟をした
母が私の目を見ている
その目指しの強さに目をそらすこともできず

「そうだよ
頼まれてないよ
勝手に産んだんだよ
でもね
勝手に産んだから
一生懸命育ててるんだよ」
母は少し笑って蛇口をひねった

水の音
食器がぶつかる音
母のハミング
‥‥‥‥何も言えなかった
母の正当性に圧倒された
母は完全にあたしの正義だと思った

一生懸命育ててもらっているから
一生懸命生きていかなければならない
と、誓えたのは
ずいぶん後になってからだけどね
 (長崎県平戸市  本山純子)
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私たちはみんな、
「一生懸命生きていかなければならない」
んですよね。
両親や祖父母、そしてご先祖様が
必死でつないでくれたこの命だから。

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