古い筆箱

『ありがとう』髙木善之著「地球村」出版から紹介します。
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    古い筆箱

   うちではあまり新しいものを買い与えません。
 娘が小学校に入る時、妻は自分の古い皮製の筆箱を出してきて、
 「これはお母さんが小学校の時から大切に使っていた宝物なの。
 これを買ってくれたお父さん、加乃からみたらおじいさんは、お母さんが小学校の時に亡くなったの。
 お母さんはこれをお父さんの形見としてとても大切にしてたのよ。
 お前が大切に使うんだったら、あげようか。」と話しました。
 娘は、「うん、大切に使うからちょうだい!」と言って、それをもらいました。

 ある日、担任の先生から電話がかかってきました。
 「加乃ちゃん、古い筆箱を持っていますね。きょうそれがクラスで話題になりましてね。」
 先生の話によると、男の子が娘に「お前の筆箱、古いやないか、僕のはこんなのやで。」と自分のピカピカの筆箱を自慢したのです。
 ほかの子も周りに集まってきて、娘の古い筆箱のことをはやし立てたそうです。

 それに気づいた先生が、とっさになんて言おうかと迷っていると、
 娘は「ね、古いでしょ!いいでしょ!これはお母さんが子どもの頃から大切に使っていたんだって。
 おじいちゃんの形見なの。私も大事に使って、私の子どもにこれをあげるの。」と言ったそうです。
 まわりの子どもたちは一瞬シーンとなり、そしてしばらくすると男の子たちが
 「ふーん、ええな。」と言ったそうです。
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 物が壊れるとすぐに捨てて、新しいものを買ったりしてしまう時代に、この「古い筆箱」の話はいろいろな事を考えさせられます。
 「一つ一つの物を大切にする」
 「誰かの思いがこもったものを次の世代に伝えていく」
  など、今の日本では忘れられている大切なことを教えてくれるような気がします。
 
  あなたは近くにいる大事な人や身の回りの物を大切にしていますか。